ビニールハウス農園「柏ファーム」でIoTをやってみたPart4 ~土壌水分量の可視化~

はじめに

三菱総研DCSのインフラエンジニアの中川です。
Part3では熱中症リスクをアラートするサービスを紹介しました。 最終章のPart4では水やり管理の課題を解決したサービスについてご紹介します。

土壌水分量の可視化

土壌水分量を可視化する目的は以下の課題を解決するためでした。 課題の背景やこの解決策の検討経緯はPart1で説明していますので、詳しくは「Part1 解決する課題」をご覧ください。

課題

  • 育てる作物や季節によって変化する水やり量の管理が難しい

解決策

この課題に対するアプローチとして最終的に以下のサービスを提供しました。

  • 土壌水分量を可視化し、水やりの量を確認できるWebアプリケーション

実装

水分量センサー

水分量センサーを取り付けた専用のセンサーデバイスを製作して土壌水分量を計測することにしました。デバイスにセンサーを接続する際ハンダ付けが必要になる場合がありますが、今回はハンダ付けが不要でデバイスに差し込むだけで扱えるGroveSystem[1]を採用し、手早くセンサーを作れるように工夫しました。

[1] Groveはプロトタイプシステムを構築するのに適している規格化されたモジュラー型コネクターです。(出典元:SeeedstudioWiki

最初はGroveSystemの中からseeed社の水分量センサーを試しました。写真1のようにUnaShieldに搭載されているGROVEコネクタに水分量センサーを差し込みます。

写真1.seeed社の水分量センサー


これで土壌水分量を観測できるようになりましたが、プロトタイプの検証中に問題が発生しました。 湿らせた土壌の計測を始めて2週間ほどで計測部分の金属が錆びついてしまったのです。
錆が付いてしまうと正確な値を計測できませんし、作物を作る土壌になんらかの影響を与えてしまう恐れも考えられます。値段が安く断続的な利用には向いていますが、今回のように常時水分に晒す用途には向いていません。
腐食に強いセンサーを探したところ抵抗感知タイプではなく静電容量感知で土壌の水分レベルを測定するDFRobot社のセンサーは腐食に強いとの記載を見つけたので水分量センサ―を交換することにしました。金メッキが剥き出しのセンサーとは異なり耐食性の高い材料で作られているということで、同じくらいの時間をかけて検証しても腐食の影響を感じることはありませんでした。
こちらもコネクタ形状になっていますが、UnaShieldが4ピンのGroveコネクタであるのに対しDFRobot社のセンサーは3ピンになっているため、写真2のようにUnaShield側はジャンパワイヤを使用してソケットに差し込む方式で接続しました。

写真2.DFRobot社のセンサー


土壌水分量の可視化

土壌水分量の可視化はNode-REDを用いて実装しました。 図1に示すように、Part3で紹介した気温や湿度の可視化と同様の機能構造を採用しました。デバイスで収集しSigfoxを使って転送された水分量のデータをNode-REDで受け取り、専用のダッシュボードで可視化する仕組みです。

図1. 水やりの量の管理を目的とした可視化の仕組み


今回はデバイスを2台設置しましたので、図2のようにデバイスごとに収集した水分量データをメーターとグラフで表示するDashboardノードに繋げました。水分量センサーで取得できる値は260~520の範囲であり、260は水中、520は乾燥を表すので値を反転して出力しました。

図2.可視化を実現するNode-REDの処理フロー

実地検証

センサーデバイスを設置する場所は水がかかってしまう恐れもあるのでデバイスとセンサーの両方に水濡れ対策を施しました。 図3のように、デバイスは100円均一の店などで売られているプラスチック容器に入れ、センサーは接続コネクタ部分をカプセルトイのケースで覆うことで水濡れを防止しました。
デバイスで取得した土壌水分量は、農場長が持つスマートフォンから確認することができます。 これまでは朝と午後にルーティーンで水やりを行っていましたが、一部の畑については可視化することで適切な水やりのタイミングや量を視覚的に把握して管理することができるようになりました。

図3.現地でのテスト風景

今後の課題

バッテリー駆動

最初はバッテリー駆動を考えましたが、1日に140回のSigfox通信を行うので2500mAのバッテリーで1日しか持ちませんでした。 そのため、今回は延長コードを使って各デバイスの電力をAC電源から供給する方式にしました。 ただ、今後デバイス数を増やそうとしたときにコンセントの数に限りがありますので各デバイスへの直接供給では対応が難しくなります。
この課題を解決する案として、各センサーで収集した水分量データを消費電力の少ないBLE(Bluetooth Low Energy)を使って一台のSigfoxデバイスに集約するゲートウェイ方式を考えています。 データ収集する複数のデバイスから直接Sigfoxで通信するのではなく消費電力の少ないBluetoothで通信を行うため、ボタン電池やリチウムポリマー電池での駆動ができるのではないかと期待しています。
さらに、Sigfoxの通信は1台のデバイスに集約できますので、Sigfoxの契約数を減らすこともできるためセンサーデバイスを増やした場合でも通信コストの変動を抑えることができると考えています。

野菜の収穫時期予測

時間が足りず取り組めていない課題の一つに野菜の収穫時期予測があります。
野菜を収穫すると希望する社員に配布しています。これがとても好評なのですが、当社は農業経験が少ないため野菜の収穫時期の予測が難しく、収穫した野菜を社員に配布するタイミングを事前にアナウンスできないという課題を抱えています。
解決方法としては野菜が成長していく状況を日々画像で取得し、AI技術を用いて収穫時期の予測ができるのではないかと期待しています。 この方式では画像データを転送しなければならないのでSigfoxではなく3G/4G通信を使うことになると思いますが、SORACOM Airはそれも踏まえて選定しているので全体構成を大きく変える必要はありません。
今後はカメラの設置やAIのモデル作成・実装などに取り組みたいと考えています。

まとめ

全4回にわたってIoTを活用した柏ファームの働きやすさ向上の事例を紹介しました。 普段はインフラ系の保守を担当していますので、今回の取り組みのように直接ユーザに喜んで貰えるという経験は多くありません。 本活動ではユーザを観察して課題を見つけ出し、ユーザ重視の姿勢で技術を駆使して課題を解決していくとても貴重な経験ができました。
ひとまず完結していますが、残っている課題は引き続き取り組みたいと考えています。 また進捗があれば続編という形でお知らせしたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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