概要
三菱総研DCSで新技術の調査・検証を担当している諸星です。
近年、様々な企業や団体がSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを積極的に進めています。SDGsとは、貧困の撲滅や地球環境の保護などについて、2016年から2030年までの15年間で日本を含む世界各国が達成すべきゴールを示したものであり、地球上の人々が安心して暮らすための世界共通の目標です。
今回、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」に向け、広域画像データを分析して東京都品川区周辺の最新の緑被状況を調べてみたいと思います。
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」では、「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の促進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」という目標が設定されています。私たちや企業が身近な街の緑被状況を把握することが、目標達成への第一歩となります。
必要な準備として
今回は、広域画像データを用いて品川区周辺の緑被状況を調べていきます。
広域画像データは、産業技術総合研究所(AIST)が運営している「LandBrowser」よりLANDSAT-8という衛星の画像データを無償でダウンロードしました。
LANDSAT-8の画像データは、近赤外波長帯を有しており、その波長(845-885nm)を活用して緑被の活性度を調べます。
ダウンロードした画像データは、最新の緑被状況を調べるため、2021年2月11日撮影(LANDSAT-8)のデータとしました。
画像データの分析には、「位置情報付きビッグデータの活用について考えてみた」でご紹介した「QGIS」を活用していきます。
検証と結果
検証は、以下①~⑥の流れでおこないました。
➀LandBrowserより画像データ(Band2(可視光), Band3(可視光), Band4(可視光), Band5(近赤外))をダウンロードします。
LANDSAT-8のBandと波長帯は下記のようになっています。今回は、この中のBand2~Band5を利用します。
緑被は、Band4:630-680(波長帯(nm))ーRedの光を吸収し、Band5:845-885(波長帯(nm))ー近赤外線は吸収せずに強く反射しますので、この性質を上手く活用して緑被の活性度を調べます。
■LANDSAT-8
「Band1:433-453(波長帯(nm))」
「Band2:450-515(波長帯(nm))」ーBlue
「Band3:525-600(波長帯(nm))」ーGreen
「Band4:630-680(波長帯(nm))」ーRed
「Band5:845-885(波長帯(nm))」ー近赤外線
「Band6:1560-1660(波長帯(nm))」
「Band7:2100-2300(波長帯(nm))」
「Band8:500-680(波長帯(nm))」
「Band9:1360-1390(波長帯(nm))」
ダウンロードが完了後、QGISへデータを追加します。
画像データを追加した当初は、図のように白黒の画像となります。
➁追加した画像データを一つにまとめます。これは、それぞれのBandを1枚の画像データとしてQGIS上で扱えるようにするためにおこないます。
メニューバーの「ラスタ」→「その他」→「仮想ラスタの構築」を選択します。
仮想ラスタの構築画面が立ち上がりましたら、パラメーターの「Input layers」へ画像データを追加し、実行をおこないます。
仮想ラスタの構築処理が終了すると、色のついた画像データ(トゥルーカラー)が出来上がります。普段、私たちがよく見る衛星画像です。
➂緑被の個所を描写します。
仮想ラスタの構築処理が終了した時点では、赤のBandにはBand3、緑のBandにはBand2、青のBandにはBand1が設定されていると思います。
緑被の個所を描写するには、以下のように近赤外のBandを赤のBandへ設定していきます。
赤のBand(R):Band4(近赤外)
緑のBand(G):Band3(可視光)
青のBand(B):Band2(可視光)
Bandの設定が完了すると、以下のような画像データ(フォールスカラー)ができます。画像データ中の赤色の個所が緑被の個所を示しています。近赤外(845-885nm)は普段人間の目では見えない光ですが、赤のBandへ設定することで描写されます。
➃品川区の行政区画を追加します。 国土交通省が運営する国土数値情報サイトより、品川区の行政界をダウンロードします。
今回は、シェープファイル形式で令和2年作成の行政区画をダウンロードしました。
➄行政区画をQGISへ追加します。ドラッグ&ドロップで追加できます。
➅わかりやすいように植生を緑にします。
以下のように、近赤外のBandを緑のBandへ設定していきます。
赤のBand(R):Band3(可視光)
緑のBand(G):Band4(近赤外)
青のBand(B):Band2(可視光)
Bandの設定が完了すると、以下のような画像データ(ナチュラルカラー)ができます。画像データ中の緑色の個所が緑被の個所を示しています。近赤外(845-885nm)を緑のBandに設定することで、植生を緑に描写しています。
LANDSAT-8という解像度30mのデータを利用しているため、はっきりはわかりづらいですが、なんとなく品川区には緑被エリアがほとんど存在しないことがわかります。米国の最新のWorldView衛星等は解像度が30cmとなっており、より精度の高い緑被状況が分析できます。
高精度な衛星画像データは、高額で従来では入手が困難でしたが、最近では宇宙ベンチャーが低価格で高品質な衛星の打ち上げを進めています。 今後は、高精度な広域画像データを活用し、様々な社会課題や環境問題の可視化をする取り組みが増えてくると思っています。また、AI・ディープラーニングを活用した広域画像データの分析にも注目していきたいと思います。
まとめ
今回は、AISTの提供している広域画像データを活用して緑被状況を確認してみました。最新の画像データを活用することで、今の環境変化が見えることと思います。
次回は画像データの教師なし分類をおこない、その後に品川区の緑被の面積(ヘクタール)を求めていきたいと思います。
また、最終的には経年での緑被面積の変化を算出できたらと思います。
用語解説(付録)
LANDSAT-8
2013年に打ち上げられ、USGS(アメリカ地質調査所)とNASA(アメリカ航空宇宙局)が運用する地球観測衛星
可視光
人間の目で見える領域(波長:380nm~780nm)の光のことです。
近赤外
人間の目で見えない領域(波長:800nm~2500nm)の光のことです。
トゥルーカラー
人間の目で見たのと同じ色合いに近い合成です。
フォールスカラー
植生の分布域や活性度を把握する際に用いる合成です。
ナチュラルカラー
植生を緑で表現した合成です。