はじめに
三菱総研DCSでネットワークエンジニアとして勤務しております小渡(オド)です。
私は普段、自社システムのネットワーク設計・構築・保守などを行っているのですが、
ここ最近で特に印象に残っている案件として、社内ネットワークにSD-WANを導入するといったものがあります。
今回は、このSD-WAN導入案件について取り上げたいと思います。
SD-WANとは?
SD-WANについて取り上げるまえに、まずはSDNについてご説明します。
SDNとは"Software Defined Networking"の略でして、名前の通り、ソフトウェアで定義したネットワークということになります。
従来のネットワークで構成変更をするためには、ルーターやスイッチ、ファイアーウォール等に1つ1つ設定をしていく必要があり、とても大掛かりなものでしたが、SDNであればソフトウェアによるネットワーク制御で簡単に構成変更や管理が行えます。
SDNは主に企業LANで使用されるものでしたが、その技術をWAN(広域ネットワーク)に適用したものがSD-WANとなります。
従来のネットワークでは、OSI参照モデルで言うところのLayer3(ネットワーク層)のルーティングによって通信経路の制御を行っていましたが、SD-WANではソフトウェアでネットワーク制御を行うため、アプリケーション毎に柔軟な経路選択などの設定をすることが出来ます。
SD-WANの導入と効果
当社では社内ネットワークで抱えていた課題をSD-WANによるソリューションで解決するため、VMware社の「SD-WAN by VeloCloud」を導入しました。
SD-WANではCisco社のCisco SD-WAN、Citrix社のCitrix SD-WANなどがありますが、当社がVMware社の「SD-WAN by VeloCloud」を選択した理由としては、サブスクリプション契約のため、柔軟に追加・削減が可能なこと、品質補正機能が優秀なことなどがあげられます。
実際に導入するとなると日本企業ではまだ導入事例が少なく、ナレッジが不足していたこともあり、色々と苦労もありましたが何とか乗り越え、2019年9月に品川本社、千葉情報センターを含む7拠点への導入が無事完了しました。
そしてSD-WANの導入によって、以下の課題を解決することができました。
1.回線コストの高止まり
当社では元々、拠点間の回線に2本のギャランティ型回線を利用し、冗長構成を組んでおりましたが、そのうち1本をベストエフォート型回線に置き換えました。
ベストエフォート型回線は安価な代わりに信頼性に劣りますが、「SD-WAN by VeloCloud」の品質補正機能を使用することによって、高い品質の維持が可能です。
ギャランティ型回線は維持費がかなり高額になるため、SD-WAN導入費を差し引いても長期的なランニングコストでみると大きくコストダウンすることに成功しました。
2.ネットワークの利用状況が把握できない
以前まではネットワークの利用状況について、全体のトラフィック量でしか確認出来ませんでしたが、「SD-WAN by VeloCloud」のトラフィック可視化機能によって、アプリケーション毎のトラフィック量やスループットの確認が出来るようになりました。
どのようなトラフィックが流れているかを把握することによって、今後はより適切なネットワーク管理が可能になると思います。
今後の展望
SD-WANの導入によって社内ネットワークで抱えていた2つの課題を解決することが出来ましたが、実はもう1つ課題が残っています。
それはSaaS利用時の低レスポンスです。
当社では現在、インターネット宛のアクセスを全てデータセンターに集約してから外部に出しているのですが、クラウド技術の発展によりシステムを外部に置くことが一般化してきた昨今のネットワークでは、インターネット向けのアクセスが増加傾向にあり、データセンター集約型のままではそこに負荷が集中しますし、ボトルネックになってしまいます。
その課題を解決するため、SD-WANによるローカルブレイクアウトの実装を進めています。
ローカルブレイクアウトとはインターネット向けのアクセスを拠点間のインターネット回線から直接外に出すことを可能にする技術なのですが、それによってデータセンターをバイパスし、SaaS利用時のレスポンス向上を期待しています。
今回はまずはトラフィック量の多いOffice365の通信だけをローカルブレイクアウトさせる予定なのですが、いずれは全てのインターネット通信をローカルブレイクアウトさせて、データセンターのインターネット接続用設備を廃止することも可能になるかもしれません。
まとめ
SD-WANは従来のネットワークのあり方を変えるような素晴らしい技術ですが、まだまだ導入事例が少なくナレッジが不足している状況です。
これからの業界を盛り上げるためにも、SD-WANの活用方法について今後も発信していければと思っています。