CMMI V2.0 レベル5達成までの道のり

はじめに

三菱総研DCSの若林と申します。PMO部でCMMI(CMMI Development)の推進役を担当しています。前回、DCSにおける CMMI活用の取り組みについてご紹介しましたが、2023年の9月に評定を実施した結果、2017年、2020年に続いて今回も全社でレベル5を達成することができました(公式発表はこちら)。そこで、本記事では今回レベル5を達成するまでに実施してきた取り組みについて紹介致します。 

目次

  1. 前回評定との違い
  2. CMMI V2.0を使ってみた
  3. ミッション1:外部委託プロセスを改善せよ
  4. ミッション2:「抜き打ち評定」に対応せよ
  5. レベル5達成の秘訣
  6. おわりに

前回評定との違い

今回の評定が前回の評定と一番大きく違う点はCMMIのバージョンが1.3から2.0に変わったことです。両者の違いを大まかに言うと以下の2点です。

  • プラクティス(要求事項)が431件から196件に削減された反面、一部のプラクティスで難易度が上がった。
  • 評定手法にランダムサンプリングが採用され、対象プロジェクト・対象PA(※1)がオンサイト(※2)の60日前になってから確定するようになった。

※1.PA・・・CMMIにおける要求事項を集めたグループ(Practice Areaの略)
※2.オンサイト・・・CMMI評定において要求事項が満たされているか、目標レベルを達成できたかを評定チームが評価・判断する活動期間

それぞれの詳細、およびこれらの課題に対する対応方法について以降で説明します。

CMMI V2.0を使ってみた

CMMIで達成したレベルの有効期限は3年間であるため、当社では3年に1度のペースで評定を実施していますが、その間に「ミニ評定」というリハーサルを1回開催するようにしています。本番である評定(以降「本評定」と記述します)と同様、開発部門から選んだメンバーとPMO部のメンバーから成る評定チームを編成し、リードアプレイザ(CMMIの主催団体であるISACAから認定を受けた評定者)も参加した上で、開発プロジェクトを対象として実施します。

当社ではCMMI V2.0が発表された当初から調査・対応を進めており、2019年のミニ評定では早速V2.0を使用することにしました。ランダムサンプリングへの対応方法が確立されていなかったため、対象プロジェクトをあらかじめ5件に絞った上で、PAをランダムに割り当てるという方法を取りました。また、評定ではモデルという文書(各プラクティスの詳細を記載したもので、評定チームのメンバーにとっては「六法全書」のような存在です)を使用しますが、ISACAからCMMI V2.0モデルの公式日本語訳が3月に発行される予定だと聞いていたので、余裕をもって6月にオンサイトを実施することにしました。ところが、発行が予想以上に遅れてオンサイトに間に合わず・・・結局、自分達で英文を翻訳しながら作業することになりました(皮肉なことに公式日本語訳が発行されたのは7月でした)。

その結果、外部委託のプロセスに致命的な欠陥が見つかりました。V2.0から新たに追加されたプラクティスの中に、今までのやり方では明らかに対応できないものがあったのです。

SAM 4.1 「品質およびプロセス実績の目標」を達成するために、尺度を選定して分析技法を適用し、供給者の実績を定量的に管理する。

従来は委託先の有無にかかわらずプロジェクト全体を対象に定量品質管理を行っていたのですが、新たに追加されたプラクティス(SAM 4.1)では、委託先の成果物に対して単独で定量的な品質管理を行う必要があることが判明しました。

図1.ミニ評定で見つかった欠陥

ミッション1:外部委託プロセスを改善せよ

標準プロセスはPMO部で管理しており、その改善もPMO部で実施しています。しかしながら、外部委託は開発プロジェクトと社外のベンダーが直接交渉によってやり方を決めて合意するプロセスなので、経験のある担当者の意見を聞きながら新プロセスを策定する必要があります。そのため、開発部門に協力を依頼し、選出された3名のメンバーと一緒に半年間のワーキンググループという形で新たな外部委託プロセスを検討することにしました。

さらに次のミニ評定を2022年9月に実施した結果、前回(2019年6月)のミニ評定における欠陥を解決したプロジェクトが見つかったため、それらの好事例も含める形で新たな外部委託プロセスを標準プロセスに組み込み、2023年7月にようやく全社に向けて公開しました。

ちなみにCMMIの評定結果を公開しているISACAのサイトで確認すると、世界中でレベル5を達成した企業のうち、外部委託のPA(SAM)を対象に含めているのはわずか5%・・・企業によっては評定対象の全プロジェクトで外部委託を実施していない場合もあるため正確なところは不明ですが、多くの企業が手を焼いている気がします。

ミッション2:「抜き打ち評定」に対応せよ

次はいよいよランダムサンプリングへの対応です。CMMI V1.3における評定では、対象プロジェクトを当社で事前に決めることができたため、6、7件の対象プロジェクトを選定した上でオンサイトの1年位前から準備を進めてきました。しかしながら、CMMI V2.0ではオンサイトの60日前に対象プロジェクト、対象PAを当社ではなくISACAが対象候補プロジェクトの中からランダムに選ぶので、それ以前の期間はどのプロジェクトが対象に選ばれても対応できるよう、「抜き打ち」に備える必要があります(このように書くと厄介なものに思えますが、監査の技法としては「試査」として確立された方式であり、より本来の目的に近い形での評価方式になったとも言えます)。

図2.ランダムサンプリングの概要

最初に検討したのがミニ評定の実施時期です。CMMI V1.3は2020年9月で廃止されたため、2022年のミニ評定ではCMMI V2.0を使用、すなわちランダムサンプリングを本格的に実施する必要があります。そこで考えたのが「的を引き付けてから撃つ」作戦です。これまで、ミニ評定は本評定から次の本評定までの3年間のうち、中間の1年半前に実施してきました。しかしながら、今回は次の本評定の1年前にあたる2022年9月に実施することにしました。その理由は、間隔を1年に狭めておけば、ミニ評定で対象候補として確認したプロジェクトを本評定でも対象にできると考えたためです。実際、今回の本評定で対象候補としたプロジェクトのうち1/3はミニ評定でも対象候補になっていたものであり、準備を省力化することができました。

図3.ミニ評定実施時期の検討

次に取り組んだのが対象候補プロジェクトを「広く浅く」確認する方法の確立です。対象候補プロジェクトは約20件、V1.3の頃の3倍です。これらを限られた期間内に確認するために「留意点チェックリスト」というものを作成しました。これにより重要な部分だけを確認できるようにし、更にはそれぞれのプロジェクトとの打ち合わせを1回ずつに限定しました(従来は5~10回実施)。この進め方はミニ評定で試行した後、改善を行った上で、本評定でも実施しました。

図4.留意点チェックリスト

最後に実施したのがランダムサンプリング後におけるコミュニケーションのスピードアップです。今回の本評定では対象として13件のプロジェクトが選出されましたが、その後は

  • 対象となったPAの伝達
  • 成果物を格納したフォルダへのアクセス権限追加依頼
  • インタビュー参加者、参加方法(来場/オンライン)の確認

といった事項をいち早くそれぞれのプロジェクトに伝え、60日間と限られた期間の中で評定チームメンバーが準備作業を遅滞なく実施できるようにする必要があります。そのため、これらの事項を予めリストに整理した上で、メール文面のひな型や回答用の書式を事前に作成しておくことで対応しました。

レベル5達成の秘訣

多くの方々の協力を得て上記の取り組みを行った結果、今回の本評定においても全社でレベル5を達成することができました。これに前後して「CMMIレベル5達成の秘訣は何でしょうか?」という質問を受けることが多くなりましたので、この場を借りて回答します。

最も重要な役割を果たしているのは、当社独自の標準プロセスである「DCS開発標準」です。2007年に制度化して以来、CMMIのプラクティスにおける考え方を参考に、プロジェクトの開発作業や管理作業に使用するプロセス、書式、サンプルといった成果物一式を整備・改善してきました。恐らく当社のプロジェクトのメンバーでCMMIのプラクティスを覚えていたり、意識したりしている人はほとんど居ないと思います。あえて意識しなくても、「DCS開発標準」を使用することで、プロジェクトが自然にCMMIに沿ってシステムを開発したり、プロジェクトを管理したりすることができる・・・そのような状態を目指しています。

そして、もう一つ大事なことは管理する指標(レビュー指摘数、テストケース数、それらの所要工数や比率等)を決め、実績を収集した上で、プロジェクトの将来予測や改善に活用できる形で還元し続けているということです。細かい説明は省略しますが、車に例えるなら、スピードメーターだけでなくカーナビを備えている(定期的に更新された最新の地図データを基に、到着までの候補ルートと予測時間を案内する)と言えば、雰囲気はわかっていただけるかと思います。更に言うと、これらの活動を当社の事業戦略にどのように役立てるかというストーリーを整備し、継続的な改善につなげています。自分達の組織を最適化する・・・ここまでできるのがレベル5です。

おわりに

CMMIレベル5達成をきっかけに、DCSでの取り組みについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。今後もCMMI評定や標準プロセスの改善を通じて、当社のプロジェクトがより良い成果を挙げ、お客様に価値を提供できるよう支援していきたいと考えています。

最後まで読んでいただき有難うございました。